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脳機能fNIRS誕生20周年

20th Anniversary functional NIRS imaging since Junly 1991

Kato T, Kamei A, Takashima S, Ozaki T (1993)
Human visual cortical function during photic stimulation monitoring by means of
near-infrared spectroscopy.
Journal of Cerebral Blood Flow and Metabolism 13:516-520.

ダウンロード

【2018年に新たに発表した論文はこちら】
Toshinori Kato
Vector-Based Approach for the Detection of Initial Dips using fNIRS.
DOI: 10.5772/intechopen.80888

関連セミナー

脳機能fNIRS誕生20周年記念・脳の健康医療セミナー2011
「脳が成長する医療のための脳の活性化の診断と応用」

プログラムⅠでは、1991年、脳の活性化をfNIRSという方法で捉えることに世界で初めて成功した加藤俊徳が、脳機能fNIRS誕生20周年記念講演で当時のブレイクスルーと、その後の発展についてお話します。
プログラムⅡでは、脳機能fNIRSの最新診断技術(COE)を初公開し、血流を使った従来の脳科学(fMRI)が誤診してきた脳の活性化の正しい捉え方と新しい活用法を紹介します。
脳の活性化を正しく診断できるようになった今、多分野で応用が進んでいます。
そこで、プログラムⅢでは、応用例の1つとして口腔から脳の健康を支える歯科医療のエビデンスを示します。
プログラムⅣ・Ⅴでは、脳を成長させる医療分野として注目が集まる、子どもと大人の海馬が引き起こす発達障害は、MRIで確実に診断できるようになりつつあります。脳の学校独自の脳の成長を見る脳画像MRIでは、脳に病気があってもなくても、一生涯、脳をイキイキさせる脳ハウをご紹介します。

セミナーを通じて、脳の活性化を正しく捉えて、新しく活用する健康医療の最先端の取り組みをわかりやすくお話しいたします。

  1. プログラムⅠ
    脳機能fNIRS 誕生20周年記念講演

    1. イントロダクション:ヒト脳科学のブレイクスルー講演抄録を見る
    2. 脳機能fNIRS研究のプロローグ講演抄録を見る
    3. 脳機能fNIRSイメージングの誕生からCOEへの発展~1991からの出発~講演抄録を見
  2. プログラムⅡ
    脳の活性化の正しい捉え方と新しい活用法

    1. 脳機能fNIRSのブレイクスルーが健康医療にもたらす意義講演抄録を見る
  3. プログラムⅢ
    口腔から脳の健康を支える歯科医療のエビデンス

    1. 歯科医療の現状と社会性講演抄録を見る
    2. なぜマウスピースを使うのか?~脳機能分析から解ったこと~講演抄録を見る
    3. 口腔と脳をつなぐ脳画像診断技術-MRIとCOE-講演抄録を見る
  4. プログラムⅣ
    海馬が引き起こす発達障害

    1. こどもの海馬の発達異常講演抄録を見る
  5. プログラムⅤ
    脳の成長を見る脳画像MRI

    1. 脳画像で前頭葉の成長が見える講演抄録を見る
    2. 脳相診断でわかる“生涯元気”の脳ハウ10ヶ条~100歳まで成長する脳の鍛え方~講演抄録を見る

プログラムⅠ 脳機能fNIRS
誕生20周年記念講演

脳機能fNIRS 研究のプロローグ

高嶋幸男 先生詳細プロフィールを見る
国際医療福祉大学大学院教授
柳川療育センター施設長、柳川リハビリテーション学院学院長

1980年代には、新生児仮死では、低酸素血症に続いて脳循環障害が生じて脳障害が生じるために、脳循環モニターを行い、脳障害の予防法を追求していた。脳循環代謝 障害の動物実験に際して、超音波による脳血流速度測定を行い、続いて、近赤外線分光測定装置(浜松ホトニクス)による脳循環動態モニターの研究を行った。初めは、fNIRS動物実験で低酸素負荷や過換気時の脳循環代謝動態モニターに利用した。次いで、新生児や重症心身障害児の呼吸異常時の脳循環動態の臨床研究に応用した。その間に、加藤らは、光刺激による視覚野の反応を観察し、感覚刺激で脳血流が特異的に変動することを見いだした。

更に、動物のけいれん発作時の脳血流変動の実験からヒトのてんかん発作時の脳循環動態観察、ヒトの脳機能観察へと発展した。
脳機能ネットワークは繊細であり、簡便なfNIRSの更なる発展が期待される。

脳機能fNIRSイメージングの誕生からCOEへの発展 ~ 1991年からの出発~

加藤俊徳 先生詳細プロフィールを見る
株式会社脳の学校代表

脳機能fNIRSイメージング法は、誕生からあっという間に20年が過ぎました。
すでにMRIとMRSの国際学会で論文を発表し、SPECTを使った脳血流の発達研究を
していましたが、「まだ、自分の知りたい脳を何もつかんでいない」という思いで
した。すでに、「脳だ、自分は脳を知りたい」と決意した中学3年生の14歳の夏から
すでに16年が過ぎていました。MRI, MRSの研究もSPECTの研究も自分で発明した装
置ではありません。

当時の願望は、「自分で世界中どこでも使える脳の装置を持ちたい、子どもの脳を
知るもっと簡便な方法がほしい」ということでした。
そうした思いの中で、1991年7月、国立精神神経センター神経研究所の高嶋幸男先生
の研究グループに参加することが出来ました。同僚の亀井淳先生に、「あの装置、
何?」「もしかしたら、加藤先生もあの装置使うことになるよ」という会話を交わし
ている最中に、「俺なら、そんな使い方はしない。いくつかの問題点がある。脳機能
を計る検査機器なら可能性がある。」そのような内容を覚えています。

それから、同年8月に国際MR学会に参加して、造影剤を使ったfMRIの発表をみて確
信を持ちました。帰国後、再実験を亀井先生に手伝ってもらい、私たちは発案後2ヶ
月もしない間に、脳機能fNIRSイメージング法の基本原理を完成したのです。

この脳機能fNIRSイメージング法が、世界で最初に出来た理由は明確でした。MRS,
MRIとSPECTの脳技術を使って、光CTの問題点が解消できたからでした。
当時、いずれの装置も特別な施設でしか使えなかった4つの異なった脳計測技術の
利点と欠点を補い合うように生み出した新技術が、脳機能fNIRSイメージング法
でした。

1992年冬、われわれの脳機能fNIRSイメージング法は、fMRIの研究論文より2ヶ月
ほど早く国際論文に受理され、ヒト脳科学の歴史が動いていくことを肌で体験して
きました。ヒト脳科学研究には大きな問題がありました。その一つは、複数の賞を受
賞しているfMRIには原理的にも大脳生理学的にも問題点ありました。
fMRIの問題点は、脳診断における決定力がないことです。曖昧な結果(時には誤診)
をもたらすfMRIは脳の医療に活かすことが困難なのです。fMRIの技術は、発表後数
年で技術がほぼ飽和しました。

しかし、脳機能fNIRSイメージング法は、発表後、技術的な発明の数がますます
増加しています。もう一つの問題は、脳機能fNIRSイメージング法は生理学的には
未完成だったことです。従来のfNIRS研究のoxyHb解析では、脳機能を正確に
計測することはできません。これは1991年の原理の発見当時の技術レベルと
結果の意義が正しく広まらなかったためです。私は脳機能fNIRSの原理発見者として、
この大脳生理学上の問題を解決するために、1995年から2001年、米国の機関で
研究しました。

その結果、fMRIの決定力のなさが浮き彫りになり、脳機能fNIRSイメージング法は、
神経細胞が酸素をいつどのように使うのかを画像化するCOE(脳酸素交換マッピン
グ)という新たな技術へ進歩を遂げました。
私は、脳機能fNIRSイメージング法を使って、脳酸素交換度として脳の働きを定量する
方法を生み出しました。このCOEの発見によって、fMRIが抱えていた問題の根本も
明らかになりました。脳機能研究の21世紀の新しい方法が見つかっています。
今回初めて、その技術革新と、社会的な活用法をご紹介します。

参考文献
  1. 加藤俊徳. 脳機能の局在化とfMRI の決定力. 脳神経外科30:685-700 医学書院, 東京,2002
  2. 加藤俊徳.COE( 脳酸素交換機能マッピング)‒光機能画像法原理の利用-. 小児科46:1277-1292, 2005
  3. 加藤俊徳.fNIRS/COE の計測と解析の講義, 2011
  4. Kato T (2006) Apparatus for evaluating biological function. WO/2003/068070.
    http://www.wipo.int/patentscope/search/en/WO2003068070
  5. Kato T (2007) Biofunctuon diagnosis device, biofunction diagnosis method, bioprobe,
    bioprobe wearing tool, bioprobe support tool, and bioprobe wearing assisting tool.
    WO/2006/009178. http://www.wipo.int/patentscope/search/en/WO2006009

プログラムⅡ 脳の活性化の正しい捉え方と新しい活用法

脳機能fNIRSのブレイクスルーが
健康医療にもたらす意義

遠藤明 先生詳細プロフィールを見る
えんどう桔梗こどもクリニック院長
昭和大学小児科兼任講師

  1. 今世紀、なぜ脳科学なのか

    人類の寿命は18世紀の産業革命以後に急速に延長し、特に日本は半世紀前には考えられなかったような世界有数の長寿国になりました。
    さらに現代では価値観、人生観が多様化して人生の規範を自分の外側にではなく内側に求める必要性が増してきました。

    このように多彩な価値観にみちた超高齢社会において満足できる一生をおくるために、日常生活に不自由のない健康な身体を維持する方法、いっそう自己実現をはかるために個別に特性を知り、かつ生かす方法などが求められるようになりました。
    特に自分の精神と行動の特徴を科学的にとらえ、適切な方向づけが可能な方法論が希求されるに至ったことは長寿社会における歴史的必然といえます。

  2. “加藤博士以前の脳科学”とは

    これまで中枢神経の形態診断として世界中でCTスキャンとMRIが用いられ、主に脳卒中と脳腫瘍の診断と治療効果の確認などの手段としてたいへんに大きな功績がありました。しかし、これらの器機によって「脳に障害のある人の残存している脳機能ル-トを探り、正しいトレ-ニング方法を提供する」という発想も技術もありませんでした。脳機能や発達障害の段階を確定させる検査といえば心理発達検査以外になく、教育効果の評価も困難です。
    特に重症の障害者において生命維持管理が重視され、臨床症状から得られる情報は評価者の五感で把握しうる範囲に限られているのが現状です。

    巷では脳に異常のない健常人を対象として脳ドリルや脳トレ-ニングゲ-ムが流行していますが、これらは脳を漠然ととらえ、脳全体を鍛えて老化を防止することを目的としたもので脳の番地に特化したトレ-ニング方法ではありません。個別に脳機能を読みとり、個人の特性にあわせた情報を提供する技術は存在していませんでした。

    また、脳の機能を診断するための陽電子断層撮影法 (以後PET)は放射性被爆を伴うことで汎用されにくいだけでなく、脳活動に伴う二次的な血流変化を反映するために脳機能を正確に判定しているとは言えません。
    同様に機能的MRI(以下fMRI)も脳外の血流の変化を強く大きく反映するため脳機能の正確な測定は困難でした。

  3. 個人レベルの脳に対応する加藤博士の脳科学業績

    加藤博士は1991年に近赤外光を頭皮上から照射して脳機能反応を画像化する原理を発見しました。これにより侵襲なく乳児や小児でさえも脳機能を計測できるようになりました。その後、毛細血管内の酸素交換機能を計測する方法(脳酸素交換機能マッピング:COE)を完成しました。
    脳機能の診断は、fMRIなどの不確実な方法でしかアプロ-チできませんでしたが、COEにより個人の脳の酸素の使い方をモニタ-することで個人レベルの脳の精神活動を定量できる診断に飛躍しました。

    また、MRI画像を精密に検討した結果、過去から現在までの生活と思考により脳の形態が成長しながら決定されることがわかりました。
    さらに脳に正しく情報を与えるとこれまで考えられてきた以上に「脳の形が働きとともに変わり続ける」という事実を発見し、 MRI脳内ネットワ-ク活性画像法(MRIによる脳相診断法)を確立しました。
    この方法により一見、多くの脳機能を失ったようにみえる患者さんでさえも残存している脳機能を診断し、適切なトレ-ニングを処方することが可能となりました。以来、20年以上にわたり障害者の脳のリハビリテ-ションに従事しています。

    加藤博士は小児のMRI画像の検討過程で、それまで原因不明とされてきた自閉症スペクトラム、学習障害、注意欠陥多動性障害などの発達障害の素因病巣をつきとめ、扁桃体と海馬の発達障害からその臨床症状の特徴を見出すことに成功しました。
    この新しい疾患概念は海馬回旋遅滞症Hippocampal Infolding Retardation:HIRと命名されました。臨床心理発達検査では評価しえない高次発達障害の脳の形態的発達段階を評価し、脳を成長させるための治療計画を立てることができます。

    日本では2003年に第106回日本小児科学会(福岡)で発表しています。MRI診断は思考のプロセス、情報処理のプロセスを抽出することが可能なため、器質的異常のない健常者に対しても応用され、脳の機能を個性診断し、自分の人生を豊にするための正しい脳成長トレ-ニング法を提示することが可能になりました。

  4. MRIによる脳の形態診断とCOEの普及が社会にもたらす影響
    1. 福祉支援脳機能検査の普及

      これまで重度の障害者の臨床症状から得られる情報は評価者の五感で把握しうる範囲に限られていました。
      左右の視覚ルート、聴覚・言語ルート、運動ルート、情動・記憶ルート、感覚ルート、小脳と脳幹のルートの残存する機能を脳画像により読みとることで、どの脳機能ルートを選択して効果的に支援できるかを検討することで、精度の高いプログラムを作製することができます。
      さらにCOEにより酸素の使われ方を見ることで、脳機能ルートの活性化を解析し、指導を受けている子どもの脳の状況をリアルタイムに理解できるので、障害児と支援者の両者がその場で教育効果を理解するための強力な手段となりました。

    2. 教育支援現場での活用

      これまでは「脳のどの部分を鍛錬すべきか」「脳はどのように働いているか」「鍛錬した結果、脳に変化は見られたか」などを調べる客観的計測法が存在しませんでしたが、MRIによる脳機能ルートの診断により、「どこの脳機能ルートを使って支援すればより効果的か」「お互いの情報にどの程度一致点があるか」「獲得が難しそうなことはなにか」などについて教師と医師の対話ともいえるものが新たな局面を迎えています。

      学習効果が脳細胞の酸素の交換状態で定量診断できるので、有効で効率的な教育方法が検討さることになるでしょう。
      これまでに新しい能力を獲得するために膨大な数の教育~勉強方法が発表されてきましたが、MRIとCOEの検証によりあるものは科学的裏付けを得ても、またあるのもは実際には役に立たないものとして棄却されることになります。

    3. カウンセリングにおよぼす影響

      現代では自殺、引きこもり、不登校、依存症などが社会現象となっています。
      また、社会生活がうまくいかない子どもや成人に対して聞き手がその原因を聞き出し、世の中にうまく適応させることを最終目標にして心理療法、カウウンセリングが広く行われています。

      しかし、外からの価値体系に個人を適応させる治療には限界がありました。これらの手段が仮説の域を超えられない心理学にもとづき、科学的デ-タを提示できないという弱点を内在しているため、常にそれらの妥当性が問題とされてきました。それに対して脳の形態と酸素の使い方を観察することで科学的なデ-タを提示しながら、健康な脳番地の成長を増進し、病的な脳番地を改善させる「脳を成長させる処方箋」を検討できる時代になりました。

      MRI、COEのような強い実証に依らないカウンセリングの領域では妥当性が問われ続けることになります。特に、カウンセラ-側と受ける側の両者が共通の状況分析結果を持たなければ、受け手側の考えを時間を掛けて聞くという非客観的な視点への改革が問われてくるでしょう。
      これは、とりもなおさず、医療機関でのムンテラといわれる医師と患者とのコンセンサスの確立にも影響をすると考えられます。

    4. 「健康寿命を延ばすアンチエイジング」から「個人の能力を伸ばすアンチエイジング」へ

      問題のある生活習慣からおこる病的老化を回避するためのアンチエンジングという考え方が普及しています。脳の機能もまた健常に維持し、生涯にわたって成長させるためには脳に情報を入力させることが必要です。アンチエイジングに、脳をとりまく環境を整えることで老化を遅らせ、脳を生涯にわたって成長させていくという新しい視点が加わりました。

      従来は、個人に備わる能力が充分に発揮できなくなることで定年制度がしかれてきました。しかし、個人の能力は中高年からでも成長するという新しい現実から、定年制度が脳の働きを弱めるきっかけになっていることが明らかになっています。

      1度獲得された能力が一生涯、保証されない現実と、年を取っても脳を伸ばせる現実が、能力に対する新しい見方を生み出していくはずです。
      学業と能力、社会人としての能力、100歳まで生きるための能力など、能力に対する価値基準が変わりつつあります。

      つまり、脳の成長特性によって発揮出来る能力が異なるという新しい現実に向き合う必要が出てきました。脳から能力を高めることで脳のアンチエイジングを実現していく生き方が問われることになります。

    5. 脳データから問われる社会改革

      加藤博士が開発した検査方法の最大の特徴は個人の脳を無侵襲で、感度よく検査できて過去、現在、未来の状態を表現できる科学的デ-タを提示できることです。
      しかも脳に関する科学的デ-タを診断する側とされる側、教育・医療関係者と家族や当事者が共有できます。

      このようなエビデンスを構築できる脳の形態診断と機能診断は他にみあたりません。
      これまで脳機能に関連する多岐にわたる分野の事業の妥当性が検証され、脳機能を直接反映しない理論と方法にもとづく既成の検査、理論、産業は淘汰されて行くでしょう。

      個人の特性に合わせた脳機能の開発によりいっそう多様性のある社会を許容する方向に向かわざるを得なくなり、思想にまで変化がおよぶ可能性を内在しています。
      脳科学におこったbreakthroughの影響は医学界のみにとどまらず、多くの関連する世界におよび、産業構造すら変化していくことが予想されます。

プログラムⅢ 口腔から脳の健康を支える歯科医療のエビデンス

  • 歯科医療の現状と社会性

    小林充治 先生詳細プロフィールを見る
    医療法人オリーブ オリーブファミリーデンタルクリニック 院長
    岡山大学歯学部臨床教授
    広島大学歯学部非常勤講師

    「いくら努力しても結果が出ないのは、その考え方と手法が間違っているからである」(山田方谷:理財論より)、この言葉は私の座右の銘の一つです。今回のタイトルである「歯科医療の現状と社会性」は、いままでの歯科医療そのものの考え方を別の視点から眺めてみようというものです。

    現在の歯科医療の範囲は、大学歯学部の6年間において教育され、そして歯科医師国家試験に合格すべき規準に沿って構築されたものが、一つの基準になっているのはまぎれもない事実であります。
    いわゆるムシ歯に対する処置、歯周病に対する処置、歯など口の中の疾患、特に痛みを伴うものに対する対応と、歯がなくなったあとの咬みあわせを確保するための、入れ歯やかぶせ物の修復処理をもって、歯科医療の範囲は大部分を占めているのが現状です。

    ところが、口の中に限定された歯科医療という考え方をもつ限り、新しい時代の歯科医療の発想は芽生えてこないでしょう。
    従来の歯科医療が口の中の健康を維持させるためだけにあるという発想から、身体的な健康、及び、社会的な健幸への貢献が歯科医療の範囲として含まれるなら、歯科医療そのものの社会的貢献度は大きく飛躍するものと思われます。

    今回、歯科医療を社会性という視点から捉えて、どのようなアプローチが考えられるか、考察してみたいと思います。

  • なぜマウスピースを使うのか?
    ~脳機能分析から解ったこと~

    荒井正明 先生詳細プロフィールを見る
    トータルヘルスアドバイザーズ(株) 口腔生体医学研究所
    歯科医師

    マウスピースは、顎関節症・いびき・睡眠時無呼吸症候群・歯ぎしりなどの治療、スポーツ分野での歯・口内の保護、脳への衝撃の軽減、運動能力(特に筋力)の向上などの目的で多方面に用いられています。
    また、その使用方法(上顎型、下顎型、上下顎型)や作成方法(市販型、オーダーメイド型)、作成材料など多種多様なマウスピースが作成され普及しています。

    さらに、マウスピースの効果・効用が認知されるようになり、各種競技・団体におけるルール化や推奨によって使用者が増加しています。

    しかし、この様な現状の中でマウスピースを装着することの効果・効用や生体・脳にどの様な変化が起きているのか?、そしてその使用方法、材質や形状、作成方法の違いによる差異はないのか?、などこれらについての検証・評価など成されていないのではないでしょうか。

    そこで、加藤俊徳先生が開発したCOEシステムでマウスピースが脳機能に与える影響を様々な条件で各々の課題を行い測定解析した結果、脳に与える効果すなわち脳血流量・酸素消費に影響を与え効率よく脳を使えるマウスピースがある一方で、むしろ脳に悪影響を与えてしまう場合もあり、慎重にマウスピースの形状・材質・用途などを選ばなければいけない事、そして個別の競技の種別によって効果的な組み合わせ、選択の必要性などの結果及び考察が得られました。

    また、歯科医療の中での「噛み合わせ」にとって上顎と下顎の意義・役割などについてもこの研究を通して考察を展開できたので合わせて報告します。

  • 口腔と脳をつなぐ
    脳画像診断技術-MRIとCOE-

    加藤俊徳 先生詳細プロフィールを見る
    株式会社脳の学校代表

    歯科医療は18世紀から治療内容に変化がないと言われてきました。
    しかし、私たちは、2つの脳画像診断技術、MRIとCOEを使うことで見えてくる21世紀の新しい歯科医療を提案することができます。
    歯の治療だけを目的にすると脳への影響は全く見えてきません。
    しかし、MRIとCOEを使い口腔と脳のつながりを診断することで、脳と歯・口腔が結びつき、歯科医療がエビデンスを持てるようになってきました。

    新しい歯科医療では、MRI画像を使うことで脳と口腔の結びつきが明らかになります。例えば、咀嚼力が弱いことは、脳画像MRIから診断することが出来ます。脳画像を分析する事で、歯並びの悪さやうまく咀嚼できないことも診断することができます。

    その理由は、咀嚼する脳番地が、咀嚼できる人とそうでない人とでは異なった形状をしているからです。
    すなわち、咀嚼機能と脳の形が密接に関係しているエビデンスが捉えられています。
    口腔機能と脳が密接に関係しているエビデンスが積み重なることで、お口の診断から脳の状態も推測できるようになります。さらに、歯科医の治療が、実は脳の成長の行方に影響していることが明らかになりつつあります。

    MRIだけでなく、COE診断技術も新しい歯科医療を導きます。
    呼吸の仕方の違いや、マウスピースの形状の違いさえも、脳をリラックスさせて酸素消費の効率を変えたり、脳への負担を減らすことまで分かってきました。
    歯科医は、口腔の治療をしながら、いわば、脳に触っていた様なものだったのです。

    MRIとCOEを使ってどのような新しい歯科医療がみえてきているのか報告いたします。

    およそ10万ともいわれる歯科医師の活動によって、歯科医療は支えられています。
    一人の患者として歯科医院を選ぼうとするとき、どの歯科医院に行くべきか?
    実は何も手がかりや基準がありませんでした。
    できることなら、脳にいい影響を与える歯科医に行きたいと思うのが患者側の願いです。

    口腔と脳のつながりを理解して治療ができる歯科医が誕生し始めていることは事実です。

プログラムⅣ 海馬が引き起こす発達障害

こどもの海馬の発達異常

高嶋幸男 先生詳細プロフィールを見る
国際医療福祉大学大学院教授
柳川療育センター施設長、柳川リハビリテーション学院学院長

脳の中で、海馬は記憶や情動の働きで、極めて重要な部位であり、その微細な異常でも、認知症やてんかんの原因となり、発達期の精神障害の発症にも関与する。
海馬の発達異常には、大別して、形態的異常と機能的異常があり、形態と機能の面から多数の研究があり、画像診断や分子生物などで進歩は速い。
海馬の形態異常は、染色体異常や遺伝子変異による形成異常でもみられる。

トリソミー18では、海馬の顆粒細胞層の弯曲に微細で特異的な形成異常があり、海馬の回旋異常を伴う。多小脳回症や厚脳回症でも皮質形成異常が海馬にも及ぶことがある。
また、周産期の低酸素性虚血性脳症や乳幼児のけいれん重積症でも海馬に壊死後の硬化像が生じ、てんかんとの因果関係で議論が多い。更に、周産期には、海馬支脚に神経細胞のアポトーシスが起こりやすく、精神発達障害の病因としても注目される。

このように、海馬では、発達期には異常が起こりやすいが、細胞再生もみられ、傷害予防が期待される。

プログラムⅤ 脳の成長を見る脳画像MRI

  • 脳画像で前頭葉の成長が見える

    大越優美 先生詳細プロフィールを見る
    東部療育センター小児科

    障害をうけた脳は成長がとまるのでしょうか。
    動くことや話すことの困難な、寝たきりの方たちの脳は寝たきりなのでしょうか。

    答えは否です。
    こどもの脳は発達とともにダイナミックに変化してゆきます。
    それは障害をうけた脳でも同じです。
    特に、前頭葉は、前へ前へと美しく伸びてゆきます。

    脳は成長する力強さとともに繊細さを持っています。
    伸びやかな脳が一時的に停滞してしまうこともあります。
    成長を続けるには工夫が必要です。
    近年、MRIやCOEを用いて、脳形態や脳機能を視覚化できるようになりました。

    今回、セミナーに参加してくださった皆様といっしょに、前頭葉が伸びやかに育まれてゆくようすを見つめ、成長し続けるノウハウを考えていきたいと思っています。

  • 脳相診断でわかる
    “生涯元気”の脳ハウ10ヶ条~100歳まで成長する脳の鍛え方~

    加藤俊徳 先生詳細プロフィールを見る
    株式会社脳の学校代表

    わたしは、MRIという画像法を通じて、多くの健康な人の脳と障害を持った人の脳を見てきました。平行して人類の脳が作り出す世の中の様を科学的な視点で観察してきました。
    その結果、分かったことは、「ほとんどの人類が自分の脳の力を過小に評価している。」ということです。

    そこで、脳の力、潜在する能力を生み出せる脳の本当の姿を多くに人に知って頂くための脳科学技術を求めてきました。その結果、「MRI脳相診断法」を体得するに至りました。
    「MRI脳相診断法」は私の発明です。しかし、どんな優れた発明であってもそれを使いこなすためには、専門的な修練が必要になります。

    脳の中に病気を探すだけでは脳の医療は、不完全です。
    脳の医療は、脳の中に健康な脳番地を探し成長させる新しい医療が必要です。
    脳梗塞、脳卒中、認知症疑い、うつ病、発達障害などどんな病気であっても健康な脳番地を成長させるために、「MRI脳相診断法」が必要です。

    プロフィールにありますように、1992年MRI脳内ネットワーク活性画像法を、国際MRI学会に発表して以来、脳科学の究極の技術は、脳内ネットワークの活動を可視化することであると考えてきました。
    このMRI使った技術は、MRIの発明者で、2003年ノーベル医学生理学賞受賞者(1994年京都賞受賞者)のポール・クリスチャン・ローターバー博士にも賞賛を頂きました。
    それ以来、MRI脳内ネットワーク活性画像法を別なアイデアで試みた結果、「MRI脳相診断法」を発見することが出来ました。
    すでに、この脳相診断技術はTVや書籍で多くの有名人・芸能人を鑑定しただけでなく、脳の学校で一般の方々に提供しています。

    自分の脳相を知ること、相手の脳相を知ることで、これまでの生き方を振り返り、これからの生き方のヒントを得られます。脳相は、脳内ネットワークの構築そのものであり、生き方・脳の使い方次第で生涯変化し続けるものだからです。
    これまでの脳科学は、個人の生き方を論じるほど精密でなく、また生き方を変えるほどの確証がありませんでした。しかしこの脳相診断は、占いや健康診断以上に“生き方”を画像化する技術です。
    これこそ、社会が求めてきた脳科学のイノベーション(新しい活用法)だと確信しています。

    「MRI脳相診断法」が誕生した結果、生み出された個人の問診で脳を画像化できる「SRI自己申告脳機能診断法」などすでに始まっている脳を成長させる21世紀の脳の育成医療を紹介いたします。

    参考文献 Kato T, Kamada K, Segawa F, et al,. (1992) Effects of Photo Stimulation on the Anisotropic Diffusion of the Visual Fibers. SMRM proceeding book in Berlin, p1409.

各先生のプロフィール

加藤 俊徳 先生

高嶋 幸男 先生

高嶋幸男

  1. 昭和39年九州大学医学部卒業、九州大学医学部小児科学教室、病理学教室、
    トロント大学小児病院で、小児脳病理学研究
  2. 昭和54年鳥取大学脳研小児科助教授
  3. 昭和62年国立精神・神経センター神経研究所部長、同病院部長、同神経研究所長
  4. 平成14年国際医療福祉大学大学院教授、柳川療育センター施設長
  5. 平成20年柳川リハビリテーション学院長
  6. 専門小児神経学、神経病理学、小児科学、新生児学、先天異常
  7. 研究領域発生・発達期の脳障害
  8. 出版2007年トロントおよびテキサス小児病院と共同で、
    Pediatric Neuropathology:Atlas-textを出版

遠藤 明 先生

遠藤明

  1. 昭和55年 昭和大学医学部卒、同大学小児科勤務
  2. 昭和61年 昭和大学付属豊洲病院勤務
  3. 平成8年 えんどう桔梗こどもクリニック開業

小林 充治 先生

  1. 昭和61年 岡山大学歯学部卒
  2. 平成2年 岡山大学大学院歯学研究科卒 歯学博士
  3. 平成4年 オリーブファミリーデンタルクリニック開設(岡山市)
  4. 平成7年 医療法人オリーブ開設
  5. 平成10年 広島大学歯学部非常勤講師(~現在に至る)
  6. 平成17年 岡山大学歯学部臨床教授(~現在に至る)
  7. 現在 医療法人オリーブ オリーブファミリーデンタルクリニック 院長
    歯科医師臨床研修指導歯科医

荒井 正明 先生

荒井正明

2008年9月まで開業医として歯科臨床に従事、その中で生体と口腔機能との関わりについて関心を持ち勉強してきましたが、従来からのいわゆる「全身咬合論」には論理的な裏付けがなく経験則によるものが殆どでした。

そこで、今までの自分自身の臨床を見直しこれまでの方向性と決別しベクトルの切り替えをする為に歯科医院の経営を譲渡し歯科医療の原点、役割を模索する「旅」に出る事にしました。

そのような中で加藤先生が開発した脳機能計測システムを用い2009年より歯科的介入が脳に及ぼす影響について研究を続けて現在に至っております。
そして、これらの結果を踏まえて歯科医師、歯科医療にほんの僅かでもその新たな役割その未来像を提案出来たら幸いです。

大越 優美 先生

小児科医。

国立精神神センター武蔵病院(現 国立精神神経医療研究センター病院)小児神経科レジデント、東京小児療育病院を経て、現在、東部療育センター小児科勤務。
武蔵病院で髙嶋幸男先生に師事し、神経病理を学ぶ。
同時期に加藤俊徳先生に遭遇し、その斬新な考えに衝撃を受ける。

現在は、重症心身障害児・者の医療に携わりながら、小児リハビリテーションの有効性を模索している。