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ベクトル法fNIRSを学ぶ

加藤俊徳医師の発見と研究により、脳の働きを酸素で見る脳酸素交換量(COE)の計測法が
開発され、脳血流(CBV)とを同時計測できるベクトル法fNIRSが完成させました。

この発展により、今や脳の働きを定量的に高速で解析できるまでになりました。

脳酸素交換量COEと脳血液量CBVを同時計測できるベクトル法fNIRS

脳を科学的に研究する方法

同時計測

脳を科学的に研究するには、脳の計測法を用いなければなりません。
動物ではなく、人の脳を科学的に探究するには、人体に悪影響を与えない計測方法が
必要なのです。
上図に示すように、人の脳は、脳の構造を見るMRI、脳の電気活動を計測する脳波(EEG)や脳磁図(MEG)、脳を血液や代謝産物など生化学的な側面から計測するfMRI、MRスペクトロスコピー(MRS)、ポジトロン断層法(PET)、単一光子放射断層撮影(SPECT)、機能的NIRS(fNIRS)などがあります。

これらの脳計測法の中で、汎用性がある手法として、MRIは、脳病変の検出のために、医学臨床応用され診断、治療に用いられています。脳波は、てんかんなどの異常波の検出や睡眠障害の診断において用いられています。

fMRIは、開発当初、爆発的に研究されましたが期待以上に問題点がクローズアップされてきました。特に、人間があおむけになったまま動かずに脳計測しなければならず、実際の社会生活とかけ離れるため、制約が大きく、研究レベルにとどまっています。脳の血液の脱酸化ヘモグロビン(Deoxyhemoglobin)の低下を検出するBOLD法では、酸化ヘモグロビン(Oxyhemoglobin)の変化を計測できないことと、脳表の血管反応が強調されすぎて、実際に神経活動に近い毛細血管反応の感度が悪いことがネックとなってきました。

fNIRSは、画像化という点で、fMRIよりも明らかに精度が劣っていたため、fMRIよりも少し早い時期1991年、加藤俊徳医師によって、人体に害を与えずに近赤外光を使って脳のはたらきを画像化できる方法が発見されたにもかかわらず、その進歩と発展はゆっくりでした。

脳活動
fNIRSで計測した脳活動を画像化したもの

ところが、2000年代に入り、実際の社会生活を脳科学的に探究し、脳科学の知見を実社会に応用しようとする社会脳科学(Social Neuroscience)の分野が活発になり、fNIRSを使った計測が注目をあびるようになりました。

fNIRSは、ハンドフリーな状態で、ダンス中にも、車の運転中にもその脳活動を計測できることから、社会脳科学の研究分野には不可欠な手法となってきたのです。 例えば、母子関係など人と人のコミュニケーション中の脳活動、赤ちゃんの脳活動など、fNIRSは、安価であることからも、先進諸国だけでなく開発途上地域でも用いられ、赤ちゃんの栄養状態の違いが脳発達にも影響することが解き明かされてきました。

従来型fNIRSからベクトル法fNIRSへ

fNIRSは、安価で、ハンドフリーの状態で脳計測ができる点は、fMRIにはない利点がありました。しかし、脱酸化ヘモグロビン(Deoxyhemoglobin)と酸化ヘモグロビン(Oxyhemoglobin)の変化を別々に計測できるというfMRIには不可能な計測であるfNIRSの利点を生かすことができていませんでした。

その為、従来のfNIRSは、脳の血液の脱酸化ヘモグロビン(Deoxyhemoglobin)、酸化ヘモグロビン(Oxyhemoglobin)、総ヘモグロビン(Total hemoglobin)の3つの指標を計測ができたものの、これだけの内容では、脳活動を解析するには不十分という訳でした。

2002年、この問題点を解消したのが、脳酸素交換量COEと脳血液量CBVを同時計測できるベクトル法fNIRSです。

Definition of the vector coordinates.

Figure1に示すように、2次元平面を用いることで、脱酸化ヘモグロビン(Deoxyhemoglobin)、酸化ヘモグロビン(Oxyhemoglobin)、総ヘモグロビン(Total hemoglobin)の3つの指標だけでなく、COEを計測し、ベクトルの大きさL値、位相kを新しい指標として生み出したのです。

特に位相kは、定量的に脳機能を計測できる指標です。
加藤俊徳医師の発見と研究により、脳の働きを酸素で見る「酸素脳イメージング」が完成しました。

COEを計測することで、静脈の影響を強く受けるfMRIや酸化ヘモグロビン(Oxyhemoglobin)だけを解析しているfNIRSの結果は、本来の脳活動を歪んで計測していることが分かってきました。

ヘモグロビンには、「酸素と結合しているもの」と「酸素を持っていないもの」が ありますが、ベクトル法fNIRSは、それらを区別して、同時に捉えることが出来ます。

ベクトル法fNIRSを使用した研究報告はこちら

脳の酸素交換現象におけるFORCE(Fast Oxygen Response in Capillary
Event)効果とWatering効果の仕組み

COE計測法と酸素交換していない血液の計測法との相違 脳で漢字書字の学習過程を判別する

(図説明)脳にはたくさんの血管があり、血液が運ばれています。血液の中には、赤血球という成分があり、酸素と結合したヘモグロビンを抱えています。運ばれた酸素は、酸素が必要な組織に受け渡されます。 心臓から出た血管は、動脈 → 細動脈 → 毛細血管 → 細静脈 → 静脈となり、再び心臓へ戻っていきます。様々な太さの血管がある中で、組織と酸素交換をするのは、「毛細血管」だけで、動脈、静脈などは酸素交換を行わない血管なのです。脳の神経細胞は、活動するために酸素を使う必要があります。つまり、毛細血管で起きる酸素交換を捉えることが、正しい脳の活動を知ることに繋がるのです。

例えば、あなたが漢字を書いているとします。漢字を書くときに働く場所には酸素が必要ですので、酸素が細胞に移動します。これをFORCE(Fast Oxygen Response in Capillary Event)効果と呼んでいます。
酸素がなくなった血液は使用済みの汚い血となって、下流の静脈へ流れていくことになります。脳が働けば、きれいな血(未使用の血)が汚い血(使用済みの血)に変わるわけです。酸素が、血液中のヘモグロビンとの結合から離れて、神経細胞に移動するからです。脳を使うと酸素が必要になるのです。しかし、漢字を書くときに働かなかった場所もあります。その場所には酸素は必要ありませんから、そこを通る酸素は受け渡されることなく、未使用のまま、きれいな血として通り過ぎることになります。
これをWatering効果(素通り効果)といいます。

文献リスト

  1. 高嶋幸男、加藤俊徳、平野悟 水戸敬.NIR Spectroscopy による局所脳血流変動の観察.心身
    障害児(者)の医療療育に関する総合的研究の報告書(厚生省)p.179-181(1992) ダウンロード
  2. Kato T, Kamei A, Takashima S, Ozaki T (1993) Human visual cortical function during photic
    stimulation monitoring by means of near-infrared spectroscopy. J Cereb Blood Flow Metab.
    13:516-520. ダウンロード
  3. Kato T (2004) Principle and technique of NIRS imaging for human brain FORCE: fast-oxygen
    response in capillary event. International Congress Series. 1270C:88-99.  ダウンロード
  4. 加藤俊徳(2005)COE( 脳酸素交換機能マッピング)‒光機能画像法原理の利用-.小児科46
    1277-1292
  5. 加藤俊徳(2006)COE(脳酸素交換機能マッピング) - 酸素交換度と酸素交換直交ベクトルの
    利用-.臨床脳波48 41-50
  6. Toshinori Kato (November 5th 2018). Vector-Based Approach for the Detection of Initial Dips Using Functional Near-Infrared Spectroscopy [Working Title], IntechOpen,DOI: 10.5772/intechopen.80888.

ベクトル法fNIRSを使用した研究報告はこちら

ベクトル法fNIRSの応用の拡大

2002年以来、ベクトル法fNIRSの応用が広がっています。
自動車の事故やヒアリハットは、わずか1-2秒間に起こります。1-2秒の間の脳活動を精度よくモニタリングできるのもベクトル法fNIRSです。

また、脳科学の分野では、イニシャルディップ(Initial dip)と呼ばれる脳活動初期に酸素代謝が亢進する現象がその後の脳血流の増加を引き起こすと考えられています。 ところが、このイニシャルディップ(Initial dip)を精度よく検出する方法がありませんでした。 fMRIでは、4テスラや7テスラの超高磁場を用いると検出されると仮説されていましたが、際立った有効性は実証されていません。

ところが、ベクトル法fNIRSは、イニシャルディップ(Initial dip)の検出精度を高めただけでなく、イニシャルディップ(Initial dip)の分類も可能になっています。(詳しく見る

最近では、BCIの手法にも用いられその有効性が確認されています。(詳しく見る
つまり、fMRIの大掛かりな装置でなくとも、ベクトル法fNIRSは、精度よくイニシャルディップ(Initial dip)を検出できるので、応用技術が拡大しています。